なぜ認知症の人は暴言や暴力をふるうのか?
認知症による暴言や暴力には、さまざまな原因があります。
本人は決して意図的に周囲を困らせようとしているわけではなく、症状の進行や環境の変化、不安やストレスが影響していることがほとんどです。
ここでは、認知症の人が暴言や暴力をふるってしまう主な原因について詳しく見ていきましょう。
症状の進行
認知症が進行すると、記憶の混乱や時間・場所の認識が難しくなることがあります。その結果、自分がどこにいるのかわからなくなったり、周囲の人が誰なのか判断できなくなったりすることもあります。
こうした状況は、本人にとって非常に不安であり、混乱した気持ちから怒りや恐怖の感情が暴言や暴力として現れることがあるのです。
環境の変化
認知症の人は、変化に対応することが難しくなるため、環境の変化がストレスとなります。
例えば、以下のような状況で強い不安を感じることがあります。
・介護施設や病院への入所
・同居する家族が変わった
・部屋の模様替えや家具の配置が変わった
慣れ親しんだ環境が変わると、「ここはどこ?」「なぜこんなことになったの?」と混乱し、ストレスが積み重なります。その結果、暴言や暴力として現れることがあります。
理解されないことへの苛立ち
認知症が進行すると、自分の気持ちや考えをうまく言葉にすることが難しくなるため、周囲に伝えたいことが伝わらず、もどかしさを感じることがあります。
何度も同じことを聞かれる、意図が伝わらないといった状況が続くと、苛立ちが募り、暴言や暴力につながることがあります。
自尊心の低下
認知症の進行に伴い、今までできていたことができなくなり、周囲から「介護される側」になっていくことを感じると、自尊心が傷つくことがあります。
例えば、以下のようなケースが考えられます。
・「もう一人じゃ危ない」と言われる
・「わかる?」「できる?」など聞かれる
・「何度も同じことを聞かないで」と指摘される
このような状況に置かれると、「自分はまだできる」「バカにするな,」という気持ちが強くなり、それが暴言や暴力として出ることがあります。
特に、元々プライドを高くもつ人や社会的地位のある仕事をしていた人は、こうした防衛反応が強くなる傾向があります。
身体的不調
体調が悪いときや痛みを感じるとき、認知症の人はそれをうまく伝えられず、イライラや不機嫌な態度が暴言や暴力として現れることがあります。
例えば、関節の痛みや歯の痛み、便秘などの不快感がある場合、それを表現できないため、周囲の人に対して攻撃的な態度をとることがあります。
周囲の対応や環境
認知症の人に対する対応が適切でないと、感情を逆なでしてしまい、暴言や暴力を引き起こすことがあります。
例えば、急に大きな声を出したり、強引に何かをさせようとしたりすると、驚きや恐怖から反抗的な態度をとることがあります。また、騒がしい環境や過度な刺激がストレスになり、攻撃的な行動につながることもあります。
認知症の種類による違い
認知症にはいくつかの種類があり、それぞれ暴言や暴力の現れ方に違いがあります。
- アルツハイマー型認知症
記憶障害が主な症状。進行すると不安や混乱が強まり、「盗られ妄想」などが起きることがある。その結果、介護者への暴言や暴力につながることも。 - レビー小体型認知症
幻覚や妄想が現れやすい。見えないものが見えたり、誰かに攻撃されると感じることで、防御反応として暴力的になることがある。 - 前頭側頭型認知症
感情を抑える機能が低下し、衝動的な言動が増える。思い通りにならないと、すぐに怒りが爆発し、暴言や暴力が起きやすい。
認知症の種類によって、暴言や暴力の背景が異なるため、それぞれの特性に応じた対応が必要です。
認知症による暴言(暴力)への対応策
認知症の人が暴言や暴力をふるう場合、その原因を理解し、適切な対応をすることが大切です。決して本人を責めるのではなく、不安や混乱を軽減し、安心できる環境を整えることが重要です。
ここでは、基本的な接し方、具体的な対応策、そして環境の調整について詳しく解説します。
原因を探す
暴言や暴力は、突然起こるように見えても、何らかの理由があるはずです。まずは、どんな状況で起こっているのかを探ることが大切です。
体調の変化を確認する
認知症の人は、自分の不調を言葉で伝えるのが難しいため、体調不良が原因で不機嫌になったり攻撃的になったりすることがあります。
・頭痛や腹痛などの痛みがないか
・便秘や尿意などの不快感があるか
・風邪や脱水など体調が悪くないか
環境の影響を考える
騒音や急な変化がストレスとなり、イライラを引き起こすことがあります。
・テレビの音が大きすぎないか
・照明が明るすぎたり、逆に暗すぎたりしないか
・季節の変化による暑さ・寒さが影響していないか
いつもと違う出来事がなかったか確認する
生活リズムの乱れや予期せぬ出来事が、不安や混乱を引き起こすことがあります。
・いつもと違う人が介護を担当している
・来客が多く、落ち着かない環境だった
・予定外の外出や行事があった
原因がわかることで、適切な対応がしやすくなります。
物理的な距離をとる
暴言や暴力が発生したとき、まず最優先すべきなのは安全の確保です。本人が興奮しているときに無理に制止しようとすると、さらに興奮が高まることがあります。
いったん距離をとる
本人が怒りを感じているときは、言葉で説得しようとせず、物理的に距離を取ることが大切です。
・別の部屋に移動する
・物理的に少し離れて見守る
・介護者自身が深呼吸をして冷静になる
危険なものを避ける
暴力がエスカレートする場合に備え、周囲の環境を整えておくことも大切です。
・割れやすい物や鋭利な物を手の届かない場所に置く
・急に体をつかまない(驚いて攻撃的になることがある)
・本人が落ち着くスペースを確保する
安全な距離を保ち、本人が冷静になる時間を作ることが大切です。
感情的な距離をとる
介護者が感情的に反応すると、認知症の人もそれに影響を受け、ますます興奮してしまうことがあります。冷静な対応をするために、感情的な距離を取ることが重要です。
すぐに反論しない
暴言を受けると、つい「そんなことないよ」「やめて!」と言いたくなりますが、否定するとかえって興奮が強まることがあります。
・「そう思ったんだね」と受け止める
・すぐに言い返さず、少し間を置く
・言葉の内容ではなく、本人の気持ちに寄り添う
感情的にならず、落ち着いて対応する
怒鳴ったり、強く否定したりせず、ゆっくりと穏やかな声で話すことが大切です。
・表情を柔らかくする
・声のトーンを低めにする
・深呼吸をして、冷静さを保つ
第三者に頼る
介護者が一人で抱え込むと、どうしてもストレスがたまり、冷静に対応できなくなることがあります。
・家族や友人に話を聞いてもらう
・介護サービスや相談窓口を利用する
・介護のプロにアドバイスをもらう
感情的に巻き込まれず、冷静に対応することが、本人の落ち着きにもつながります。
認知症の暴言(暴力)を予防する方法
認知症による暴言や暴力は、日々の生活習慣や環境の工夫によって軽減できることがあります。ストレスを減らし、安心できる生活環境を整えることが重要です。
生活習慣を整える
規則正しい生活を送ることで、認知症の進行を穏やかにし、情緒の安定につながります。
- 睡眠のリズムを整える
・決まった時間に寝て、決まった時間に起きる
生活リズムが乱れると、昼夜逆転しやすくなり、不安や混乱が増す原因になります。
・寝る前にリラックスできる時間を作る
寝る前にテレビやスマホの刺激を避け、静かに過ごすことで、スムーズな入眠を促します。 - 栄養バランスの良い食事をとる
・脳の健康を保つ食事を意識する
魚やナッツ、野菜を多く含む食事は、認知機能を維持するのに役立ちます。
・水分補給をこまめに行う
脱水状態は認知症の症状を悪化させる原因になるため、こまめな水分補給が大切です。 - 適度な運動を習慣にする
・散歩や体操で体を動かす
軽い運動は血流を良くし、脳の働きを活性化させる効果があります。
・日常生活の中で体を使う機会を作る
家事や買い物など、無理のない範囲で体を動かす習慣をつけることが大切です。
ストレスを減らす環境づくり
認知症の方は、環境の変化やコミュニケーションの難しさからストレスを感じやすくなります。安心できる環境を整えることで、不安や苛立ちを軽減できます。
- 安心できる生活空間を作る
・慣れた場所で過ごせるようにする
急な環境の変化は混乱を招きやすいため、できるだけ住み慣れた環境を維持することが大切です。
・家具の配置を変えすぎない
物の配置を急に変えると、不安感や混乱が強まる原因になります。 - 穏やかな雰囲気を心がける
・ゆっくり、はっきりした口調で話す
急かすような話し方や大きな声は、不安や苛立ちを引き起こすことがあります。
・表情や態度で安心感を与える
笑顔で接することで、相手に安心感を持ってもらいやすくなります。 - 適度な刺激と交流を取り入れる
・会話やレクリエーションで脳を刺激する
積極的に話しかけたり、趣味や好きな活動を続けられる環境を作ることが大切です。
・孤独を感じないようにする
家族や介護スタッフ、地域のサポートを活用しながら、適度な交流の機会を作ることが重要です。
さくらリバースの紹介

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まとめ
認知症の暴言や暴力は、本人がうまく気持ちを伝えられないことが原因の一つです。病気の症状として受け止め、冷静に対応し、無理に抑え込まず、安心できる環境を整えながら向き合うことが重要です。
介護者が一人で抱え込むと、心身の負担が大きくなります。家族や専門機関のサポートを積極的に活用しましょう。
