高齢者が夏に寒さを感じる理由とは
高齢者が夏の暑い時期にも寒さを訴えることには、いくつかの身体的な理由が関係していると考えられています。
気温が高い日でも寒さを感じる背景には、体の働きそのものに変化が起きている可能性があります。それぞれの原因について、詳しく見ていきましょう。
筋肉量や基礎代謝の低下
年齢を重ねると、筋肉量が徐々に減少していきます。
筋肉は体の中で熱をつくる大切な役割を持っているため、筋肉量が少なくなると、自然と体温を維持する力が弱まってしまいます。
また、筋肉量の減少は基礎代謝の低下にもつながります。基礎代謝とは、呼吸をしたり体温を保ったりするために必要な最低限のエネルギーのことです。
この代謝が落ちると、体内で熱を生み出しにくくなり、結果として寒さを感じやすくなるのです。暑い日でも肌寒さを訴える背景には、こうした身体の変化が関係していると考えられます。
自律神経の機能低下
自律神経は、体温や発汗の調整、血流のコントロールなど、体のさまざまな機能を無意識のうちに調整してくれています。
しかし、加齢とともに自律神経の働きも少しずつ衰えていきます。
そのため、暑さに応じて汗をかいたり、寒さに応じて血管を収縮させるといった体温調節がうまくできなくなることがあります。
特に夏場は、外気温との差を感じにくくなるため、体が実際の気温とズレた反応をしてしまうこともあります。こうした変化により、周囲が暑くても寒いと感じることがあるのです。
食欲低下による栄養不足
高齢になると、噛む力や飲み込む力の低下、消化機能の衰えなどが影響し、食欲が落ちやすくなります。
食事量が減ると、体内に取り込まれるエネルギーも少なくなり、体温を維持するための力が弱まってしまいます。
さらに、たんぱく質やビタミン・ミネラルなど、体をつくる基本的な栄養素が不足すると、筋肉量や免疫力にも影響が出てしまいます。
その結果、真夏であっても寒さを感じたり、体がだるくなったりすることにつながります。
認知症や判断力の低下
認知症が進行すると、暑さや寒さを感じ取る力や、体調の変化を適切に判断する力が低下してしまうことがあります。
たとえば、外が非常に暑いにもかかわらず「寒い」と感じて厚着をしてしまったり、エアコンを切ってしまったりする場面が見られることもあります。
このような場合は、本人の感じ方を尊重しながら、周囲が環境を整えたり、無理のない声かけでサポートしたりすることが求められます。適切な温度管理や服装の調整を続けることで、体調の安定につながります。
暑さに鈍感になる体の変化
加齢に伴い、皮膚の感覚が徐々に鈍くなっていくといわれています。
暑さを感じる皮膚のセンサーの働きが弱まることで、外気温が高くても体が暑さを正しく感じ取れなくなり、逆に寒さを意識しやすくなることもあります。
このような変化は、本人が気づかないうちに進んでいることも少なくありません。室温や湿度を目で見て確認できるようにしたり、周囲のサポートで環境を整えたりすることが安心につながります。
空調が効きすぎた環境
夏場は室内を涼しく保つためにエアコンを使用することが多くなりますが、空調が効きすぎると体が冷えすぎてしまうことがあります。
特に高齢者は体温調節機能が低下しているため、室温がわずかに低いだけでも寒さを強く感じることがあります。
室内の温度は28度前後を目安に保ち、風が直接当たらないように調整することが重要です。温度や湿度をこまめに確認し、体への負担を減らす工夫が求められます。
夏に寒がる高齢者が抱えるリスク
高齢者が夏場に寒さを感じる背景には、体のさまざまな変化が影響しています。そして思わぬリスクが高まっていることもあります。
ここでは、注意しておきたい主なリスクについて、詳しく見ていきましょう。
熱中症に気づかず症状が進行してしまう
高齢者は体温調節機能が低下しているため、暑さを正しく感じ取れないことがあります。
そのため、実際には室温が高くても「寒い」と感じ、エアコンを切ったり、厚着をしたりしてしまうことが少なくありません。
暑さに気づかないまま過ごしていると、体の内部に熱がたまり、知らないうちに熱中症を引き起こす危険性があります。
初期症状に気づきにくいため、症状が出たときにはすでに進行していることもあり、特に注意が必要です。
水分不足による脱水
寒さを感じていると、喉の渇きを意識しにくくなり、水分補給が疎かになってしまうことがあります。
夏は汗をかかなくても体内の水分が自然と失われていくため、気づかないうちに脱水が進んでしまうこともあるのです。
脱水が進行すると、体調不良だけでなく、血液が濃くなって血栓ができやすくなり、脳梗塞や心筋梗塞など重大な病気につながる可能性もあります。
厚着による熱こもり
寒さを感じる高齢者は、真夏でも重ね着をして体を温めようとすることがあります。
しかし、厚着をすることで体に熱がこもり、体温が異常に上昇してしまうリスクが高まります。
特に、外気温が高い日や室内の換気が不十分な場合には、熱中症の危険がさらに高まってしまいます。
対策としての生活習慣
ここでは、熱中症・水分不足・熱こもりのリスクごとに、具体的な対策をまとめました。
【熱中症対策】こまめな室温チェックと環境づくりを心がける
暑さを感じにくくなっていても、実際には室温が高くなっていることがあります。
室温や湿度をこまめにチェックして、数値で確認する習慣をつけましょう。
エアコンや扇風機を上手に使い、室温は28度前後、湿度は50〜60%を目安に整えることが大切です。
【水分不足対策】喉が渇く前から少しずつ水分をとる
寒さを感じていると、水分補給を後回しにしてしまいがちです。
喉が渇いていなくても、意識的に少しずつ水分をとることが脱水予防につながります。
常温の水や温かいお茶など、体に負担の少ない飲み方を取り入れて、無理なく続けていけると安心です。
また、汗をかいたときは、水分と一緒に少量の塩分補給も意識しておきましょう。
【熱こもり対策】薄手で通気性の良い服装を選ぶ
寒さを感じて厚着をすると、体に熱がこもりやすくなります。
熱中症を防ぐためには、通気性の良い薄手の服を基本に、必要に応じて羽織れるものを用意しておくのがおすすめです。
重ね着をする場合も、脱ぎ着しやすい服を選ぶと、体温調節がしやすくなります。
ご家族や介護者ができるサポートとは
高齢者が夏に寒さを感じたとき、周囲のサポートによって体調管理を助けることができます。
無理に行動を促すのではなく、本人の気持ちに寄り添いながら、自然なサポートを心がけることが大切です。ここでは、具体的な工夫についてまとめました。
本人の気持ちに寄り添った声かけ
高齢者が「寒い」と感じたとき、その感覚を否定せずに受け止めることが大切です。
無理に暑さ対策を押し付けるのではなく、「寒く感じるんだね」と共感を示しながら、安心できる声かけを心がけます。
本人の意向を尊重しつつ、環境を調整するきっかけをつくることがサポートにつながります。
気温・湿度を可視化
体感だけに頼らず、気温や湿度を目で見て確認できる環境を整えることも効果的です。
室温計や湿度計を設置し、今の状態を数字で把握できるようにしておくと、適切な行動につながりやすくなります。
水分補給を習慣化する
寒さを感じていると水分補給が後回しになりがちですが、体内の水分は常に失われています。
喉が渇く前から少しずつ飲む習慣をつけることが大切です。
常温の水や、温かいお茶、ゼリー飲料など、本人が飲みやすい形を取り入れながら、無理なく続けられる工夫を意識していきましょう。
エアコンは止めずに調整
室温が高くなりすぎると熱中症のリスクが高まるため、寒さを感じていてもエアコンは止めずに使用を続けることが重要です。
設定温度を少し上げたり、風向きを調整したりすることで、体に直接冷気が当たらないよう配慮します。
室内の快適な温度管理が、体調を守るポイントになります。
着るものは「暑さ対策+寒さケア」を両立
服装は、通気性の良い薄手のものを基本にしながら、必要に応じて羽織れる衣類を用意します。
重ね着をしても温度調整がしやすいように工夫し、暑さと寒さの両方に対応できるスタイルを心がけます。
衣服による熱のこもりを防ぎつつ、寒さを感じたときにはすぐに対応できるようにしておきます。
自律神経を整える軽い運動
体温調節機能を保つためには、自律神経の働きを整えることも大切です。
激しい運動でなくても、朝夕の涼しい時間帯に軽いストレッチやウォーキングを取り入れるだけで、血行が促進され、自律神経のバランスが整いやすくなります。
本人の体調に合わせて、無理のない範囲で続けていけると安心です。
さくらリバースの紹介

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身体機能の維持を支え、心の安定にも目を向けながら、その方らしい暮らしを見守れる存在でありたいと願っております。
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まとめ
高齢者が夏の暑い季節に寒さを訴えるのは、体の自然な変化や生活環境の影響によるものです。
体温調節の機能がゆるやかに変わっていく中で、本人にとっての心地よさは周囲とは違ってくることもあります。
無理なく過ごせるよう、少しずつ環境や習慣を整えていくことが、穏やかな時間を支えるひとつの手だてとなります。
