介護ヒヤリハットの事例集21!対策や報告書の書き方も紹介
これらは単なる偶然やミスとして見逃してはいけません。ヒヤリハットと呼ばれるこれらの事象は、重大な事故を未然に防ぐための貴重な手がかりとなります。
本記事では、介護現場でのヒヤリハットの重要性やその具体的な事例、そして報告書の活用方法について詳しく解説します。ヒヤリハットに対する認識を深め、実際の現場で役立てていただければ幸いです。
介護のヒヤリハットとは?
ヒヤリハットがなぜ重要なのか、どのように現場で活かしていくべきかを、具体的な事例を交えてご説明したいと思います。
ヒヤリハットの定義
ヒヤリハットとは、事故には至らなかったものの、重大事故に繋がる可能性のあった「ヒヤリとした」「ハッとした」出来事のことを指します。介護現場では、利用者の安全を守るため、これらの事例をしっかりと把握し対策を立てることが重要です。
具体的には、転倒しかけた、誤嚥しそうになった、誤薬の恐れがあったなど、日常的に起こり得る状況が含まれます。ヒヤリハットの蓄積が、未然に防ぐべき事故の「予兆」となりえるのです。
介護事故との違い
ヒヤリハットは事故にならなかったケースを指し、一方で介護事故は実際に事故が発生した場合を指します。たとえば、利用者がイスの脚につまずいたが、幸い側のスタッフが体を支えたため転倒せず座り込んだだけで済めば、「ヒヤリハット」となります。
しかし、転倒してしまったら、それはケガの有無や軽傷・重症に関係なく「介護事故」です。この違いを理解することで、現場での迅速な対応が求められます。
ヒヤリハットの重要性
ヒヤリハットは、重大事故の「予兆」として重要視されます。ハインリッヒの法則によれば、1件の重大事故の背後には29件の軽微な事故と300件のヒヤリハットが存在するとされています。この法則は、1930年代に工場労働災害の分析から導かれたもので、現在では介護現場を含むさまざまな分野のリスクマネジメントに活用されています。
ヒヤリハットの事例を収集・分析し、再発防止策を講じることで、重大な事故を未然に防ぐことができるのです。介護の現場では、この法則に基づいて日々のヒヤリハットを見逃さず記録し、チーム全体で情報を共有し、対策を立てることが重要です。
介護現場におけるヒヤリハット事例【全21種】
介護現場におけるヒヤリハットの事例を見ていきましょう。
入浴編
1. 浴室内で滑って転倒
原因: 脱衣所と浴室の床の滑りやすさ、流し忘れた洗剤の泡が原因で、利用者が滑りやすくなっていた。
対策: 滑り止めマットを敷くことで安全を確保し、床の洗剤は使用後すぐに流すようにして、浴室の清掃時にも確認を徹底する。特に高齢者や平衡感覚が不安定な利用者には、補助の手を添えて安全を確保する。
2. 髭剃り介助中にカミソリで切り傷を負う
原因: 利用者が突然動いたことで、カミソリが横向きになり、肌に傷をつけてしまった。
対策: 介助中は利用者の顔に手を添えて動かないようにし、また事前に利用者に声をかけて協力を促す。電動シェーバーの使用を検討することで、安全性をさらに高める。
3. シャワーの温度確認不足で冷水・熱湯がかかる
原因: 前の利用者が使用後、シャワーの温度設定を変更したままだったが確認されなかった。
対策: シャワーを使用する前に必ず温度を確認し、最初に手で温度をチェックする。洗面器にお湯をためてから使用するなど、二重の確認を行うことで安全性を確保する。
トイレ編
4. 車椅子とトイレの間で足を挟む
原因: 車椅子の移動中に利用者の足先がトイレのドアや壁に挟まれた。
対策: 足の位置を確認してから車椅子を操作するよう徹底し、足元の確認をスタッフ同士で声かけする文化を育てる。
5. 目を離している間に利用者が転落
原因: 認知症のある利用者を一人で放置してしまったことで、立位が不安定になり転落。
対策: トイレ介助中は利用者を決して一人にせず、常にそばで見守る。介助が必要な場面では必ずスタッフが付き添うようにする。
6. トイレから車椅子の移乗時に転倒
原因: トイレの床が濡れていたため、移乗時に足を滑らせてしまった。
対策: トイレ使用前に床が濡れていないか確認し、手すりや車椅子のアームレストをしっかり持ってもらうように案内する。
食事編
7. 入れ歯をせずに食事を始める
原因: 食事前に入れ歯の装着確認を怠り、そのまま食事を提供してしまった。
対策: 食事前の確認事項として入れ歯が必要な方のチェックリストを作成し、確認漏れを防ぐようにする。スタッフ間での連携を強化し、確認項目の見える化を進める。
8. 他者の内服薬を間違えかける
原因: 複数の利用者の内服薬管理を一人のスタッフが行っていたため、誤薬のリスクが発生。
対策: 内服薬の確認はスタッフ2名でダブルチェックを行い、必ず本人に名前の確認をする。薬の保管方法を見直し、誤薬防止のために色分けや明確なラベル付けを行う。
9.隣の人の食事を食べてしまう
原因: 重度の認知症の方を目の届きにくい場所に案内してしまった。
対策: 認知症の方にはスタッフが常に見守れる席に案内し、食事の提供時には目を離さないようにする。
服薬編
10. 入れ歯の裏に錠剤が残る
原因: 入れ歯が合わなくなっており、食事や服薬時にうまく装着されていなかった。
対策: 服薬前に入れ歯を外してもらうように指導し、家族に入れ歯の作り直しを依頼する。利用者の服薬時には必ずスタッフが確認を行う。
11. 朝と昼の薬のセットが間違っていた
原因: 薬の保管が不適切で、朝用と昼用が混ざりやすかった。
対策: 内服薬管理ボックスを色分けし、一目で区別がつくようにする。薬の準備時にはスタッフ2名でダブルチェックを行い、間違いを防止する。
12. 薬の飲み忘れ
原因: 他の看護師が確認していると思い込んでいたため、飲んだかどうかの確認がされていなかった。
対策: 内服管理はダブルチェック体制を取り、飲んだ後の確認も徹底する。服薬の際には必ず声をかけて確認し、チェックリストで管理する。
着替え編
13. 靴下を履こうとして椅子から転落
原因: 椅子に座った姿勢が不安定で、体を前に倒してしまった。
対策: 靴下の着脱時には、利用者の姿勢を整え、サポートが必要な場合はスタッフが補助するようにする。安全な座り方や靴下の履き方の指導を行う。
14. 着替え中に服のファスナーで皮膚剥離
原因: 金属ファスナーのある衣服を使用していたが、利用者の皮膚が脆弱であった。
対策: 皮膚が脆弱な方には金属のない衣服を選び、家族にも依頼して衣類の見直しをお願いする。介助時には特に注意を払い、皮膚に負担をかけないようにする。
15. 着替え中に内出血を見つける
原因: どのタイミングで内出血が発生したか不明で、日常の観察が不十分だった。
対策: 着替えのタイミングで必ず皮膚状態を確認し、異常があればすぐに報告・記録する。皮膚の脆弱な方への日常のケアと見守りを強化する。
移乗編
16. 装具をつけずに移乗してふらつく
原因: 装具の装着に時間がかかるため、省略して移乗を行った。
対策: 装具の重要性をスタッフ全員で再確認し、利用者とともに安全な装着方法を練習する。装具なしでの移乗が危険であることを全員で共有する。
17.フットレストを上げずに移乗して転倒しかける
原因: フットレストの確認不足により、移乗時にバランスを崩した。
対策: フットレストの使用手順を再度確認し、スタッフ間で定着を図る。フットレストに目印をつけるなどして注意喚起を行う。
18. 車椅子のフットレストから足が落ちたまま押してしまう
原因: 移動中に足元の確認ができていなかったため、車椅子操作が不適切になった。
対策: フットレストから足が落ちないようにカバーをつけ、移動時には必ず確認するようにする。スタッフが声をかけあいながら安全確認を行う文化を育てる。
屋外移動編
19. 道端で急に座り込む
原因: 利用者の体調や体力を考慮せずに外出したため、途中で体力が尽きてしまった。
対策: 外出前には必ず体調チェックを行い、休憩ポイントを事前に確認する。利用者の体力に応じた外出計画を立てる。
20. 木の実や花を口に含む
原因: 認知機能の低下があり、スタッフの見守りが不十分だったため。
対策: 空腹感のある時間帯の外出を避け、スタッフが常に見守れる状態を確保する。外出時には危険物がないかも確認する。
21. 段差で車椅子が引っかかり転落しかける
原因: 車椅子のスピードを出し過ぎ、歩道の段差を確認していなかった。
対策: 車椅子の速度を抑え、特に屋外では慎重に操作する。段差や障害物の確認を徹底し、安全なルートを選ぶ。
ヒヤリハットが生じる原因と対策
ヒヤリハットが生じる原因と対策を詳しくお話ししていきます。
利用者本人による原因
利用者本人が原因となるケースでは、認知症や足が不自由であることからくる転倒や転落などがよく見られます。日常動作の中でも特に危険なのは、リビングのソファやトイレからの立ち上がり、浴槽への入浴時などです。
これらは日常的な動作であるため、油断しやすく、ヒヤリハットが発生しやすい状況です。スタッフが利用者の身体状況や日々の変化を正確に把握し、チーム全体で情報を共有することが対策の鍵となります。
支援する側(職員や家族)による原因
支援する側の介護職員や家族が原因になる場合も少なくありません。慢性的な人手不足や過重労働による疲労が蓄積すると、注意力や集中力が低下し、ヒヤリハットの原因になります。
また、職員間の連携不足や指導・監督体制の不備も事故の要因となり得ます。これを防ぐためには、職員同士のコミュニケーションを活発にし、リスク評価や安全教育を徹底することが求められます。定期的な研修や会議で安全意識を高め、ヒヤリハットの共有を推進することも有効です。
介護環境による原因
施設の設備や環境が原因となる場合もあります。具体的には、施設の出入り口や通路の段差、滑りやすい床などが挙げられます。小さな段差でも、高齢者にとっては転倒のリスクが高まります。
また、センサーや介護ロボットのコードが床に置かれていることで、つまずきやすくなることもあります。環境要因を減らすためには、施設全体の設備点検を定期的に行い、改善点を洗い出して対応することが必要です。施設設計の段階からリスクを考慮し、安全な環境づくりを目指すことも大切です。
ヒヤリハット報告書の書き方
ヒヤリハット報告書の書き方についてお話ししていきます。
報告書作成のポイントと注意点
ヒヤリハット報告書は、事実の記録と情報の共有を目的としています。報告書を作成する際には「5W1H(When, Where, Who, What, Why, How)」のフレームワークを使って具体的に記述します。
重要なのは、できるだけ早く報告書を作成し、客観的な事実のみを記入することです。また、専門用語を避け、誰が読んでもわかりやすい言葉で書くように心がけます。例えば「リハパン」ではなく「リハビリパンツ」と書くなど、介護現場以外の方にも配慮した表現を使います。
5W1Hの書き方ガイド
When(いつ): 具体的な日時を記入します(例: 令和5年9月1日 16:30)。
Where(どこで): 事故が発生した場所を記入します(例: 居室トイレ)。
Who(誰が): 関与した利用者や職員の名前を記入します(例: 山田花子)。
What(何を): 何が起きたのか、具体的な出来事を記入します(例: トイレの段差でつまずきそうになった)。
Why(なぜ): その出来事がなぜ起こったのか、原因を記入します(例: 段差の存在を利用者が認識していなかった)。
How(どのように): 今後どのように対応するのか、対策を記入します(例: 段差の部分に手すりを設置する)。
ヒヤリハット報告書のフォーマット
厚生労働省が出している、ヒヤリハット報告書のフォーマットはこちらです。
https://jsite.mhlw.go.jp/fukuoka-roudoukyoku/content/contents/000823930.pdf
ヒヤリハット報告書を活用したリスクマネジメント
ヒヤリハット報告書をどのように活用して、現場のリスクマネジメントを強化していくか、そのポイントについて具体的にお話ししていきます。
ヒヤリハットの報告書を利用したリスク管理
リスクマネジメントは、施設の安全性を確保するための重要な活動です。ヒヤリハット報告書は、現場で発生した事象をデータベース化し、分析するための基盤となります。リスク管理の手順としては、まずリスクの特定を行い、その後リスクアセスメントを実施します。これにより、リスクの重大度と発生頻度を評価し、最適な対応策を導き出します。
リスクマネジメントの手順
リスク特定
想定される事故を見つけ出し、それがどのような場面で起きやすいのかまでを洗い出します。一般的には「ヒヤリハット報告書」や「事故事例報告書」などを集約し、リスクを把握します。
リスクアセスメント
ヒヤリハット報告書から明らかになった具体的な事例(事故の原因や経過など)や頻度、場所について具体的に分析・評価を行います。
リスク対応
事故が発生した場合の適切な対応方針を定めます。例えば、転倒防止のために手すりを設置する、服薬管理の体制を見直すなどの具体的な行動を計画します。
リスクコントロール
業務マニュアルの整備や職員研修、ご家族への説明などを行います。これにより、現場のスタッフ全員が一貫した対応を取れるようにし、施設全体の安全性を高めます。
ヒヤリハット報告書の活用方法
ヒヤリハット報告書をどのように活用して、現場のリスクマネジメントを強化していくか、そのポイントについて具体的にお話ししていきます。
職員間の情報共有
ヒヤリハット報告書は、スタッフ間で広く共有されます。発生した状況や有効な対策といった、詳しい情報を伝えるために有効です。報告書をライブラリ化すれば、誰でも読み返せるため、新入スタッフの教育にも役立つでしょう。
報告書を通じて情報共有しやすい状況を作ることは、スタッフ全員の情報共有や事故防止に対する意識の向上、環境づくりにも効果を発揮します。
事故防止と安全な介護の実現
ヒヤリハットで報告される事例は、「一例」にすぎません。しかし近い状況に陥る可能性はすべてのスタッフ・利用者にあるため、報告書に書かれた内容は広い意味で事故防止に役立ちます。
報告書にある「原因」を排除すれば、事故は防止できるかもしれません。また違う状況には報告書と異なる点が明らかな分、対応を変える根拠も明確になります。
適切な介護の証明としての活用
ヒヤリハット報告書は、施設・スタッフが適切な介護を目指して積み重ねてきた努力を示す「証明」です。万が一、他の施設で介護事故が起こっても、似た状況におけるヒヤリハットの報告書があれば、施設がどれほど適切に対応しているかを、報告書が証明してくれます。
マスコミや行政からの問い合わせにもきちんと対応できるため、施設やスタッフ、ひいては利用者を守ることにもつながるでしょう。
介護現場でヒヤリハットを活かして事故防止に努めよう
ヒヤリハットの経験を記録し、対策を講じることで、重大な事故を未然に防ぐことができます。これから、具体的な活用方法や取り組み方についてお話ししていきます。
ヒヤリハットの再評価と継続的な改善
ヒヤリハットの対策の効果測定を行い、再評価と改善を継続することが重要です。再評価を行うことで、実際に講じた対策が有効であるかを確認し、必要であれば改善策を追加します。これにより、同じヒヤリハットの再発を防ぎ、より安全な介護環境を提供できます。
さくらリバースの紹介
さくらリバースは訪問鍼灸リハビリマッサージの事業者として、皆さまの健康と生活の質を向上させるサポートをさせていただいております。介護現場でのヒヤリハットは避けられない部分もありますが、わたしたちはリハビリやマッサージを通じて、利用者の身体機能の維持や改善を目指し、日常生活の中での動作が少しでも安全で楽になるようお手伝いをしたいと願っております。
介護の現場では、利用者の方の身体の変化やコンディションに気を配ることが事故の防止にもつながります。たちも利用者一人ひとりに寄り添い、きめ細かなケアをご提供することで、皆さまのサポートチームの一員として貢献していきたいと考えています。
皆さまの信頼にお応えできるよう、これからもサービスの質向上に努めてまいりますので、何かお困りごとやご相談がございましたら、どうぞお気軽にお声がけください。
まとめ
ヒヤリハットの情報共有を通じて、全員がリスク意識を高めることが大切です。チーム全体での情報共有と改善活動により、事故を未然に防ぐ環境を整えます。職員一人ひとりが安全意識を持ち、日々の業務に反映させることで、介護の質を向上させ、利用者の安心・安全を確保することが目標です。
施設全体での取り組みとして、安全会議の実施や、定期的な研修を行い、常に最新の情報と対策を共有する体制を整えましょう。